ワンズライフコンパス株式会社
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固定残業年俸制で最高裁の判断

  1. 事案の概要
  2. 労務管理の問題点
  3. 固定残業手当の運用において

 

 

 

 

事案の概要

年俸制の医師について、年俸の中に時間外手当が含まれているか否かについて言及した最高裁判決がありました。この裁判では、医師が、勤務していた医療法人に対して解雇が無効であることと、時間外労働と深夜労働に対する割増賃金の支払いを求めました。

判決文によると、年俸1,700万円の医師という事案であることがわかります。ですから、事業主と労働者のどのケースにもあてはまる事案ではありません。しかし、事業主は「賃金に時間外等割増が含まれていること」と主張しており、これを認めるために必要となる要件について述べられている箇所があります。この点は押さえておきたいポイントですから、取り上げてみたいと思います。

[月額の賃金に割増賃金を含めて支払っていたと認めるポイント]

    • 通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分を判別することができていたか
    • 割増賃金にあたる部分が認められるとき、その額が労基法37条の割増賃金を下回るときは、その差額を支払っていたか

この事案では、年俸1,700万円の中に割増賃金を含めるという合意が医療法人と医師の間でなされていたものの、「このうち時間外労働等に関する割増賃金にあたる部分が明らかにされていなかった。」と判断し、割増賃金がすでに支払われていたと言えないとして、最高裁判所は、東京高裁に差し戻しました。

労務管理の問題点

固定残業手当は、給与支払い実務を簡素化できるという事業主のメリットと、また効率よく働いた人でも定額手当が減額されないため、その分は労働者にもメリットがあります。例えば、月45時間以内の時間外に相当する〇万〇〇〇円を固定残業代として支払うという固定残業手当を適正に運用し、社員と真に合意するにはどうしたらよいかということが問題点です。

労基法は、1日8時間または週40時間の法定労働時間を超えて働かせる場合は、25%以上(大企業で時間外が月60時間以上の時は5割以上)を支払い、かつ深夜業に当たる場合は、25%以上の支払いが必要と定めています。

この割増支払義務の趣旨については、今回の事案では、過去の裁判例(最高裁s470406第一小法廷判決)を引用して、「割増支払義務は、法定労働時間を守らせるとともに労働時間を抑制しようとする趣旨がある。」と言われました。

そして、労基法は割増賃金の支払い義務を課しているにとどまるのだから、基本給や諸手当にあらかじめ含めて割増賃金を支払っても違法ではないとしました。

ただし、もちろん必ず割増賃金の払い漏れがないようにする必要があります。定額では足らない月に差額を追加払いするには、事業主と労働者が、何の割増手当を何時間分でいくらを月額の給与で定額払いをしているかを明らかにしておかなければなりません。このように整理してみれば、かなりシンプルだと納得していただけると思います。

固定残業手当の運用において

最後に事業主と労働者が、固定残業手当について合意できる運用をまとめてみましょう。

●内容を明らかにする方法:賃金規程、労働条件通知書と、毎月の給与明細書で、何の割増手当を何時間分で、いくらを払っているかを明示することが必要です。

●適正に支払う方法:実際の時間外労働等から計算した割増額が、固定残業手当では足らなかった月は、追加で支払うことが必要です。

判決(裁判所サイト) 医療法人社団康心会事件H29.07.07 最高裁 第二小法廷 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/897/086897_hanrei.pdf