ワンズライフコンパス株式会社 ワンズオフィス社労士事務所 発行人 大関 ひろ美
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それは労働時間だろうか_事例解説

  1. どの時間を労働時間というか
  2. 就業時間後の教育訓練は
  3. 暗黙の指示があったとみなされるとは
  4. 時間内でこなせない業務量を与えたら
  5. 健康診断は労働時間か

どの時間を労働時間というか

  ひとつ前の項目「それは労働時間だろうか」で、労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間であると解説しました。前回に引き続き労働時間にあたるかどうか個別例を考えてみます。

就業時間後の教育訓練は

 会社が社員に対して、職務に必要な知識や技術の教育訓練を行うことがあります。 この教育訓練を所定労働時間の終了後など、時間外に実施した場合、労働時間とするのか、また労働基準法の時間外割増を支払う必要があるのかについて迷うことがあります。 

 基本的には、教育訓練への参加が強制されていれば労働時間とし、自由参加であれば労働時間としないことが妥当です。また、労働時間と認めた結果、法定労働時間を超えるのであれば、時間外割増の支払いが必要です。  行政の解釈によると、使用者が実施した教育訓練で、参加が社員の意思に任せられる自由参加であり、もし欠席した場合に就業規則などによる制裁などの規定が設けられていない場合であれば、時間外労働としないと行政解釈を出しています。(昭和26.1.20基収2875号、平成11.3.31基発168号)

<教育訓練の提案> 
 教育訓練が職務に生かされ労働生産性が向上すれば、賃金の支払いをする以上の効果が得られます。払うべきものはきちんと支払って、それ以上の利益を生み出すという発想が必要ではないでしょうか。

暗黙の指示があったとみなされるとは

 会社が残業を指示していないのに、社員が自主的行った残業は労働時間となるかについては、会社が自主的残業の状態を放置していれば、労働時間とされると考えるのが妥当です。また、作業の内容は業務との関連性があることが前提になります。


 裁判例では、始業時刻前にほぼすべての男性行員が出勤し、終業時刻後も大多数が残業を行うことが常態となっている場合に、これらの作業に要する時間が使用者の黙示の指示による労働時間と認められ、時間外割増賃金の支払いが命じられました。(京都銀行事件 大阪高判平13.6.28 )

<指揮命令があいまいな残業対策提案>
事業主が残業を認めない対策をするならば、所定労働時間以外の時間は職場内にとどまる事を禁止し、そして所定労働時間終了後は職場を退去する命令を出して、時間外の業務を認めない態度を明確にする必要があります。

時間内でこなせない業務量を与えたら

 時間外労働をせざるを得ない業務量が与えられている場合は、具体的に時間外労働を命じていなくても、会社が暗黙の業務命令を与えたと考えるのが妥当です。


 裁判例では、就業時間内にこなすことができないような業務量は、社員の早出・残業は自主的に行ったものではなく、少なくとも使用者の暗黙の業務命令があったと認められ、時間外割増賃金の支払いが命じられました。(千里山生活協同組合事件・大阪地裁平成11.5.31)

<暗黙の業務命令をなくす、残業削減提案> 
事業主が時間外労働を承認しないのであれば、所定内労働時間で処理可能で適切な業務量を各自に割り当てる職務分担の見直しが必要です。
また、業務が適量と考えられるのに所定内労働時間で終らない場合は、職務の手順を洗い出し効率化を考える等の指導も必要です。さらにその職務が他の社員と協力をして行う職務であったり、他部門と連携して行われる職務であれば、上司は他部門と調整するなど、部署外と連携して効率化をはかるように配慮しなければいけません。
 一方で、該当者の職務遂行能力が劣っているのであれば、上司が具体的に仕事のやり方を指導するなど教育を実施します。それでもうまくいかない場合は、人員配置を変えるなど、いろんな検討策を実施して労働時間の削減をします。

健康診断は労働時間か

 社員に行われる定期健康診断を受ける時間は、当然に賃金を支払う義務はなく、労使が協議して決められると行政解釈が出ています。ただし、社員の健康を確保することは、事業の遂行に不可欠な条件であることから、賃金を支払うことが望ましいとも言及しています。
 また、この行政解釈は、特定の有害な業務に従事する社員が受診する特殊健康診断は、事業の遂行に当然実施しなければいけないものであることから所定労働時間に行うこと。もし、所定労働時間以外の時間に行われた場合は、時間外割増の対象になるとしています。(昭47.9.18基発602号より抜粋)

 

*1段落から4段落の参考文献:労働法実務講座 神戸大学教授 大内伸哉著 日本法令