この号の内容
- 違法残業事件その後
- 労働時間・残業の法令違反とは
- 事件報道の影響
違法残業事件その後
報道によると、関係者への取材結果として、
「大手広告会社・電通(東京)による違法残業事件で、東京地検は、東京本社の幹部数人の労働基準法32条違反を認定した上で、同法の両罰規定に基づき、法人としての電通(東京)を近く略式起訴する。その一方で、同じく書類送検をされていた関西・中部・京都の3支店については送検をしない模様だ。」
ということが分かったとしています。
残業が問題になった他の企業の例では、エービ−シー・マート、ドン・キホーテ―には、50万円の罰金が科されています。一方で、三菱電機が違法長時間労働で書類送検されましたが、嫌疑不十分で不起訴となっています。
労働時間・残業の法令違反とは
労働基準法32条では、「労働者には休憩時間を除いて1週40時間、1日8時間を超えて労働をさせてはならない」としており、残業を命じるには、36条では、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数代表者と協定を定めることが必要としています。
各社は、36条に対応するために時間外等の労働協定をして届け出をしていたと思われますが、実際には労働協定を超えた時間外労働を命じた事実か、労働者が実際に違法なほどの長時間労働をした事実があったと認められるか等が問題になりました。
こうした場合は、違法性があったと労働局が立証しなければいけませんから、事業所に捜査に入り資料を押収したり、関係者への聞き取りが行われていました。
そして、もし違法な行為があった時には、労基法には、両罰規定というものもあって、事業主と実際に違法な行為を行った部長や人事部門長にも罰則が科されます。適正な労働時間管理を事業主が指導していたが、担当部長がそれに従わなかった場合などには、違法行為者だけが罰せられるケースがあります。
事件報道の影響
大手広告代理店の事案では、法人の本社が送検され、代表者などの個人の刑事責任は問われないことになるようです。 長時間労働による精神疾患が労災認定された元社員が、自殺にいたったことについては、言葉をつくしても足らず、事実を語ることは不可能です。法令を守ることと社員の健康管理は、企業には大変重要なことです。
さて、こうしたことの採用活動を含めた事業活動全般への影響を見てみますと、違法な時間外命令があったかどうか捜査になった時点で、報道で大きく取り上げられますので、刑罰の重さとは別の社会的制裁があります。
なおその後、たとえば不起訴になった場合など、事実についての最終判断については、あまり大きく取り上げられないことが理不尽な傾向にあると思います。