ワンズライフコンパス株式会社 ワンズオフィス社労士事務所 発行人 大関 ひろ美
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この号の内容

  1. 私傷病休養中の所得補償は傷病手当金
  2. 不支給の不服解決は社会保険審査会が
  3. 社会的治癒が認められるかどうか

”受給していない期間があっても、支給開始時点から1年6か月で給付が終わります。ただし、さらに延長傷病手当金を用意している健康保険組合もあります。”

 

 

 

 

" 同じ疾病で繰り返して休むときは、いったん社会的治癒が認められるかどうかで、受給できる長さが変わってきます。”

私傷病休養中の所得補償は傷病手当金

 社員が業務災害以外の傷病やけがで会社を休む時、支払われない賃金を補うものとして健康保険制度から傷病手当金を受け取ることができます。これは、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、しっかり療養をして職場へ復帰してもらうために給付されるものです。
 ただし被保険者の共助の理念で運営されている制度ですから、どんな時でもいつまでも受給できるものではありません。一定の要件に該当するときに給付がされます。そして、ひと月ごとにまとめて等、事後に払われる給付ですので、休みだした後で不支給になることがわかることもあります。

  特に傷病手当金給付を受ける被保険者が増えてきている「うつ病に代表されるメンタル疾患」では、繰り返して休むことも多く、長期の休職になると、途中で支給が終わることがあります。社員がこれを知っていないと、きちんと休養できないことも心配です。こうした事態を防ぐためにきちんと事前に説明をしておくべきポイントがあります。

不支給の不服解決は社会保険審査会が

 制度を定めている健康保険法は、傷病手当金の給付期間は、療養のため労務ができなくなったときに、支給開始した日から起算して1年6か月間支給するとしています。

 では、たとえばすでに1年6か月間の給付を受けた人が、1年間出勤して同じ疾病で再度請求したら、もう一度給付が受けられるのでしょうか。

 実は、健康保険法は細かい給付基準を定めていないために支給か不支給かは、個別の判断にならざるを得ないのが現状です。支給申請をしてみないと、わからないケースが多いのです。

 そして、もし保険者が傷病手当金を不支給と決定した場合には、これを不服と考える人もいますので、不服申し立てができる社会保険審査会という機関が用意されています。

  この審査会で出された結論は、保険の給付判断の紛争が、行政訴訟にまで持ち込まれて裁判例が積み重ねられていくことが比較的少ない分野であることから、裁決事例となり、保険者の実務指針となっていると思います。
実際に、審査会の裁決事例の中には、毎回繰り返し述べられている考え方が含まれていますので紹介をしたいと思います。

社会的治癒が認められるかどうか

 傷病手当金の支給期間は、「同じ疾病またはケガ及びそれによって発した疾病について支給を始めた日から1年6か月を支給する。」となっています。そして、過去の傷病等が治癒した状態か、 医学的には治癒していないと認められるまでではなくても軽快と再度の悪化との間に社会的治癒があったと認められるのであれば過去の傷病とは別傷病として改めて1年6か月が支給されます。 一度出勤した当時に社会的治癒が認められるかどうかで、受給できる長さが変わってきます。

 この社会的治癒をどういう状況ならば認めるのかについては、裁決事例の中で、「この社会的治癒があったと解されるためには、 相当の期間にわたって、当該傷病につき医療(予防的 医療を除く。)を行う必要がなくなり、その間に通常の 勤務に服していることが必要とされている。」(平成23年7月29日裁決)  としており、この基準は、社会的治癒の審査がおこなわれるたびに繰り返し述べられています。

 こうした基準の中で、通常の勤務に服していた期間がどれくらいの期間必要なのかという数値を示すことができれば、保険者や会社担当者も社員への説明がしやすくなるわけですが、数値的な基準ははっきり示されていません。実際に不支給とされた被保険者からも一度受給したのちに勤務していた期間が短期間であったから社会的治癒がなかったというのは納得ができないので、どれくらいの勤務期間が必要なのかを示してほしいという申し立てをした例もあります。

 その裁決事例では、どのような事例にも共通する数値的な基準を示すことはできないとし、「対象疾病の性格、その治癒の経過、傷病手当金を前回受給後の就労状況等により総合的に判断する。」としています(平成19年11月30日裁決)。そして判断のなかで、「1年6か月近く受給した被保険者が1年6か月に満たない出勤期間があってもそれは短期間と言わざるを得ないと指摘しておく。」と言っており、依然はっきりと数値を示してはしていないものの、この事例では1年6か月程度の通常勤務がなければ短いのではないかと指摘しています。

 保険者によっては、社会的治癒があったと考える勤務期間の長さの基準を決めているところもあると聞きますが、そういった保険者も出勤していた期間の状況と治療の内容などを総合的に勘案して判断をしているようです。傷病手当金が受給できる長さを、休みだす前に事前に知らせておきたいところですが、協会健保の保険者は請求してもらったら判断するというのが基本スタンスです。

 過去に受給したことがあるときや、療養休職が長引きそうな社員には、少なくとも、こうした事実を話しておくことが重要です。