ワンズライフコンパス株式会社 ワンズオフィス社労士事務所 発行人 大関 ひろ美
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この号の内容

  1. 遅刻の罰則は何のためか
  2. 働かなかった時間の賃金控除
  3. 労基法には制裁の上限が

”遅刻などで働かなかった時間分の賃金控除はノーワークノ―ペイ原則ですから、問題ありません。就業規則にも記載するなど要件整備が必要です”

遅刻の罰則は何のためか

ある経営者から質問をうけました。職場で一人だけ遅刻が続くので困っているのだけれど、「これまでは大目に見てきたんです。しかし、どうも寝坊癖が治らないので、1回の遅刻で3,000円を天引きできないか? それとも1,000円ならば問題ないの?」 というものでした。


朝が寒くなってきていますから、ふとんから抜けだせない気持ちはわかります。若い人は、遅刻するほど眠れるのがうらやましいくらいです。しかし、勤務日には定時の時刻に出勤をしてもらわなければ、業務に支障がありますし、やる気の低下が職場のメンバーに広がっていくことも懸念されます。


さて、社長は、働いていない時間分や誠実に働く気持ちの欠如に対して、給料を天引きしたいと、いわば罰則を与えたいと考えておられると私は思って聞いていましたが、話を聞いていくうちに違う目的があるとわかってきました。


前日の忙しさから起きられないのはわかるので、どうにか時間通りに出勤する自覚を持ってもらえないかと。
注意しても治らないので、早起きの習慣付けの解決を考えており、その一つに遅刻の金銭控除がわかりやすくていいのではないかと、教育の一環と考えておられるようです。
よく聞いてみなければ、話を取り違えてしまうところでした。

働かなかった時間の賃金控除

さて、遅刻や早退および欠勤などで働かないかった時間にあたる賃金を控除することは、問題がありません。
ただし、社員と月給制の給与だと合意をしていた場合は、欠勤などがあっても月額賃金を受け取れるとも思われかねません。遅刻等の賃金控除や欠勤控除がある払い方をわかりやすく言えば、日給月給と言ってきましたが、近年は時間給で払う人以外をおおまかに月給払いと呼ぶ人が多くなっています。


労使でもめ事になる場合は、「月給制」という定義をどのように理解しているのかに双方の取り違いがあるなど、「思いや理解の違い」がある場合があります。
働かなかった時間分賃金を控除するのは、問題ないとしても、就業規則等にきちんと記載して労使で合意しておくことが大事です。

労基法には制裁の上限が

では、法的な定めがあるのでしょうか。まず、働いていない時間を超えて賃金を天引きすることは制裁規定の制限があることに注意しなければなりません。
繰り返しますが、きちんと就業規則に制裁の定めをすることが必要です。


金額の多寡については、遅刻した時間よりも多く天引きするならば、1日の半分以下、ひと月で月額の10分の1以下までが上限です。 労基法は「就業規則で労働者に制裁の規定を置くときは、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払い期の賃金総額の10分の1を超えてはならない。」としています(労働基準法第91条)。
「制裁の定めをする場合は、就業規則に記載しなければならない。」という規定もあります(労働基準法第89条 就業規則の作成・届け出義務)。


そして制裁が合理的なものとなる要件がありますから、整備したうえで実行することが必要です。 わりと当たり前のことが並びますが、確認しておきましょう。

・罪刑法定主義の原則  懲戒事由、懲戒内容を明示しておくこと
・平等待遇の原則  すべての労働者を平等に扱うこと
・二重処罰の禁止  同じ事由で二重に処分できない
・不遡及の原則  懲戒規定を制定する前の行為には適用できない
・個人責任の原則 マネジメント職でない者に他者の罰を負わせられない
・相当性の原則  処分の種類・程度は客観的な妥当性が必要
・適正手続きの原則 就業規則や労働協約などで定められた手続きが必要

こうしたことで常に考えなければいけない肝は、一つの事象に対する場当たり的な対応ではなく、労務管理や人材育成をトータルに考えた制度になっていることだと思います。備えておきたいと感じることや不明な点があればご相談ください。