この号の内容
- 懲戒処分の決定手順
- 就業規則に定める
- 証拠を集める
- 本人からヒアリング
懲戒処分の決定手順
ある日のこと、人事部門の責任者から、「懲戒処分に該当すると思われる社員がいますが、なんせうちでは初めてのことですから、どうしたらよいのでしょうか。」と相談を受けました。
組織をマネジメントする人の多くは、懲戒処分に該当する事実が社内で起こるなどと、ほとんど想定していないと思います。 しかし、突然その日がやってきます。
ただし、ケースによっては、突然起こったように見えているだけで、予測ができた事案も多くあります。
遅刻が長期間にわたって目立つなど、仕事への取り組む思いが下がっており、懲戒に該当することが起こりうる予兆があって、社員がサインを送っている場合もあるのではないでしょうか。この勤務不良の予兆は、なかなか難しい話ですので、今回は省略して次の機会に取り上げます。
さて、前置きが長くなりましたが、懲戒処分の手順や関連する項目は、企業ごとに就業規則などに決めており、取扱いの詳細は会社ごとに差があります。共通していえることは、合理的で適正な手順を決めてあるのであれば、そのルールに沿って進めなければなりません。
就業規則に定める
そうなると懲戒に関する事項を就業規則に定めてあるかが問題になります。
就業規則には、必ず記載しなければならない項目があります。そのひとつに「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」があります。
懲戒には、譴責や出勤停止などをはじめ普通解雇や懲戒解雇という退職に関するものが考えられます。ですから就業規則に定めておくことは、労働基準法からも、また合理的で公平な判断を行うという組織運営面でも記載が必要といえます。
一般的には就業規則に、次の項目を規定します。
【就業規則や内規および退職金規定】
・懲戒処分の根拠
・懲戒処分の効果・内容
・処分のための証拠収集の手順
・処分決定の手続き(決定者と通知や実行の方法)
・退職金に影響させるかどうか
【懲戒に関する労働協約があるか】
・処分のための証拠収集の手順
・処分決定の手続き(決定者と通知や実行の方法)など
そして実際に該当するような事案が起こってしまった場合は、既に決めてあるこの社内の規定をしっかり調べてから取り掛かる必要があります。
証拠を集める
そもそも処分は、同じことを繰り返さないための施策であって、円滑に組織を運営するための手段の一つです。
そういった面では、本人にも組織の仲間にも公平で納得できる処分であるべきです。またそこで、手続きを踏んだ結果、もし一番重い処分となれば、懲戒解雇になることもあるでしょう(*)。そうであれば、本人は組織から去らなければならない判断をすることになりますから、なおさら公平で慎重に進めなければなりません。
そのためにも、事実を客観的に確認できる証拠を集める必要があります。たとえば、会社のお金の横領が疑われる場合は、ビデオや資金の動きが把握できる資料、所持品・所持金の検査などが考えられます。なお実際に集めるべき証拠は、ケースによって様々ですから最良の調査方法を検討します。
そして、本人が証拠を隠匿する恐れがある場合は、自宅待機を命じ、社用のパソコンの使用を禁止する措置を早々に行います。また、自宅待機を命令する根拠が必要になりますから、就業規則にその旨を記載しておくことも一案です。
(*)解雇を行う場合は、客観的に合理的理由を欠いており、社会通念上相当であると認められない場合には解雇権の濫用をしたとして解雇が認められません(労働契約法第16条)から慎重に行う必要があります。
本人からのヒアリング
客観的な証拠が足りない場合は、本人からのヒアリングも判断材料の一つにして、処分を決定することもあります。この場合は、時間の経過とともに思いが変わることが想定されますから聞き取った内容は、文章にして本人に確認させ署名捺印を得ておくことが必要です。
また、会社が集めた証拠が十分にあると思われる場合でも、本人に説明した上で事実と相違がないか、なにか弁明することがないか、弁明の機会を与えることが必要です。この場合も聞き取った内容は文章にして本人に確認させ署名捺印を得ておくことが肝要です。
書面にした資料は、後になって処分を不服として本人と争いになった時に資料として外部に提出することも想定して作成することが効果的です。
実際は、懲戒処分を考えたかなり早い段階で、不良な事実があったと決め付けてしまうことがみうけられます。しかし、根気よく誠実に調べて本人の話を聞くことも忘れずに行い、規則に定めた決定機関で処分を決めて、本人へ通知をすることになります。
”ルールを決めておくことは、処分対象になる事実を予防することになります。また、合理的な処分を実行する合意ができていることはとても重要です”